ローカル新潮流(3)
文明論的に見ると時代はどこに向かうのか。多様性の時代に企業や職場はどうあるべきか。「とうほく経済」に求められる視座を週1回、4人の識者・経済人に輪番で発信してもらう。
■65%がそのままその地に定住
かつて「協力隊」と言えば、青年海外協力隊のことでした。近年は地域おこし協力隊を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。なにせ全国津々浦々で6000人もの隊員が活躍しているのですから当然です。
地域おこし協力隊は、都市からの移住者が地方自治体の委嘱を受けて最長3年間、地域活動に従事する国の制度です。初年度の2009年度は全国で89人、受け入れ自治体数は31でしたが、21年度は全国で6015人、受け入れ自治体は1085を数えました。内訳は男性6割、女性4割。年代は20代が33・6%、30代が35・0%と、全体の約7割を20~30代の若い世代が占めるのが特徴的です。
地域別では東北6県で計958人。中でも福島は全国4位の243人。宮城県も213人を数えます。
3年の任期終了後は65・3%が、そのままその地に定住し、地域の担い手となっています。物語はそれこそ協力隊の数だけありますが、その一部を紹介します。
■ブームではなく確かな潮流
1人目は11年に島根県川本町に協力隊員として着任した豊島睦子さん(39)。出身は横浜市。20歳で当時の勤め先で店長まで任されましたが、連日の残業で心身ともに疲れ果て、転身しました。
着任後は採れたての野菜や米をお裾分けしてもらい、自治会や神楽、草刈りなど1人で何役もこなす住民の生き方に感動。「協力隊だけど、協力してもらってばかり。皆がつながって支え合い、信頼関係で生かされる。おかげで人生が豊かになりました」。任期終了後、地元男性と結婚し、2児の母に。キャリアカウンセラーの資格も取得し、今も川本町で暮らしています。
2人目は東京都出身の西嶋一泰さん(37)。民俗学で日本の祭りを研究していた西嶋さんは「地方は面白い。観察者じゃなく担い手として関わりたい」と16年、島根県大田市に協力隊員としてやってきました。
全国の小中学生が寮生活をしながら地元の小中学校に通う山村留学センターで広報を担当し、副業でライターや映像制作を請け負うほか、私設の「はらっぱ図書室」もオープン。任期を終えた今、島根県立大地域政策学部の講師として映像表現論などを教えています。「自分ができることと、地域に求められることを組み合わせる『多業』スタイルを楽しみたい」と目を輝かせます。
地域おこし協力隊は、地域の力になりたいと都市から、わざわざ人が移住してくるいまの時代を象徴しています。こうした都市の若い世代を中心とした地方への関心の高まりは学術的にも「田園回帰」と呼ばれ、一過性のブームではなく確かな潮流として捉えられています。次回はこの背景を探ります。
(ローカルジャーナリスト=島根県浜田市在住)
[田中輝美(たなか・てるみ)さん]島根県浜田市生まれ。大阪大文学部卒。1999年、山陰中央新報社(松江市)入社。2013年、琉球新報社との合同企画「環(めぐ)りの海」で新聞協会賞受賞。14年退社し、島根に暮らしながらローカルジャーナリストとして独立。主な著書に『関係人口の社会学』、編著書に『みんなでつくる中国山地』など。21年から島根県立大地域政策学部准教授。
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