バイデン米政権はアフガニスタンとイラクで、米駐留軍の通訳や運転手などとして協力してきた地元住民らが軍撤退後にイスラム反政府勢力タリバンなどから報復を受けないよう、国外退去計画を急いでいる。ベトナム戦争では脱出できなかった多くの米協力者が殺害の憂き目に遭ったが、9月11日の撤退期限が迫る中、「サイゴン陥落」時の悪夢が蘇りつつある。
(flySnow/gettyimages)
まずはグアムに退避か
アフガンでは現在、バイデン大統領の指示に基づいて撤退が進められており、4月の時点で2500人まで削減された駐留軍の規模はさらに縮小されている。駐留部隊は最終的には首都カブールの米大使館を警護する数百人が残留する見通しだが、国防総省の懸念は高まる一方だ。駐留軍撤退が進むのを尻目に、タリバンの攻勢が一気に強まっているからだ。
タリバンはこのほど、北部のクンドゥズ州を手始めに全土で攻撃を激化させ、米軍の支援が受けられなくなった政府軍の一部が陣地を放棄し、敗走するケースも目立っている。実質的には現在、全土の半分以上がタリバンの支配下に置かれていると見られている。こうした中、ウォールストリート・ジャーナルやワシントン・ポストが米情報機関の衝撃的な分析として伝えるところによると、アフガン政府が米軍撤退後、「半年から1年で崩壊する可能性がある」という。
そこで大きく浮上してきたのが米軍のために働いてきたアフガン人協力者の安全の問題だ。こうした協力者はタリバン側からすれば、“裏切り者”でしかなく、米軍なきあと、捕まって即席裁判にかけられて処刑される恐れが強い。ベトナム戦争で1975年、サイゴンが陥落した時、多くの米軍協力者が北ベトナム軍に拘留され、「再教育収容所」送りとなった。米軍や議会では、この時の悪夢再来を心配する声が高まっている。
バイデン大統領は「協力者を置いてきぼりにすることはしない」と明言しているが、米入国のための特別査証の発給が身元審査などの事務手続きなどで撤退期限までに間に合わない見通しで、協力者らの焦燥感は募る一方だ。これら協力者は通訳や運転手、技術者、警備員、大使館事務職員などとして米国に貢献してきた人たちだ。
ニューヨーク・タイムズによると、これらのアフガン人協力者は1万8000人を超え、家族も5万3000人ほどいるという。計画では、特別査証の審査が終了するまで、軍用機や民間機を使って一時的にグアムや中東地域の第三国に退避することが検討されている。審査で承認されれば、あらためて米国に入国するという手はずだ。
しかし、この退避計画から漏れるアフガン人協力者も相当数いると思われる上、「国民の安全を守るのは基本的にアフガン政府の責任」(国防総省報道官)と言うように、米国がいざとなると逃げ腰になる可能性すらある。かつてのサイゴン陥落の際には米大使館から離陸した米軍ヘリにぶら下がって脱出を図るベトナム人の姿が中継されるなど混乱ぶりが世界に露呈された。今回も同様の事態が起こらないとは断言できない。
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