2007年12月。渋谷の旧渋谷公会堂前の路地にあった一軒の店が、32年の歴史を閉じた。その名を「チャーリーハウス」という。
カウンター10席だけの店は、れんがとウッドを基調にしたモダンな内装や、落とし気味の照明、中国老人のポスターなど、ラーメン屋としては変わった雰囲気があった。
看板には、「香港の味 広東麺 チャーリハウス」とあって、まだ見ぬ香港にはこんな雰囲気の店があるのかなあと思いながら食べていたことを思い出す。店主は、チャーリーさんと呼ばれる男性とその奥さんで、高級中国料理店での勤務を経て、店を始めたということだった。
確か一番安い「茶莉湯麺(チャーリートンミン)」は700円か800円で、僕が通い出した40年前には、かなり高価だったと思う。それでも通ったのは、どこにもないラーメンだったからである。
まずスープが素晴らしい。透き通った琥珀(こはく)色のスープは、経験値の少ない僕でも、格が違うことがわかった。
当時は知る由もなかったが、おそらく豚や鳥のガラ、野菜、金華ハムなどでとった上湯と呼ばれる、中国料理における上級の出汁(だし)ではなかったか。後日仲良くなった中国料理人が、「あそこのスープはすごい。よくあの値段で出せるなあ」と言っていた。
それに絡む、極細打ちストレートの細切り麺がまた、また素晴らしかった。
メニューは、ネギとチャーシューの細切りをしょうゆやごま油で和(あ)えて乗せた「茶莉湯麺」に、豚薄切り肉のから揚げ湯麺「排骨湯麺」、「叉焼湯麺(チャーシュートンミン、若鳥の手羽先を八角などのスパイスとしょうゆで煮たもの)」、「鳳鶏翼湯麺(若さぎカラ揚げ麺)」、「雪菜箏絲(雪菜と筍(たけのこ)炒め麺)」で、具が別皿で出てくるのが特徴だった。おそらく奇麗で澄んだ「スープをまず飲んで味わってください」というメッセージだったのだろう。
そして2007年、ご主人が高齢になったことを理由に辞められた。以後「チャーリーハウス」ファンは、途方にくれ、心に穴があいたままとなっていた。
ところが今年の暮れに、新宿を歩いていると「広東麺チャーリー」なる店があるではないか。入れば、「チャーリー湯麺」「パーコー湯麺」「手羽先湯麺」「雪菜と筍麺」と、メニュー名こそ違うけど同じ料理があるではないか。
聞けばご主人の岩本さんは、長く「チャーリーハウス」で働かれて、閉店後は葛西で店をやり、今年新宿で店を始めることになったのだという。さっそく、「ネギパーコー湯麺」と、雪菜と筍炒めを頼むことにした。
上品なスープに舌鼓 極細麺も健在
運ばれて来た「ネギパーコー湯麺」は、かつての店と、ほぼ違いがない。スープを飲めば、上品で丸く奇麗な味である。
かつての「チャーリーハウス」よりやや鶏ガラ出汁が強い気もするが、心が温まるスープである。そして極細麺も健在で、ツルルと唇を過ぎ、軽快に口の中に吸いこまれていく。
「ああうまい」。思わず独り言が出た。カレー風味がかすかに効いた豚薄切り肉の唐揚げのパーコーも、雪菜と筍も変わりなく、懐かしさがこみ上げる。平成が過ぎ、令和となった時代によみがえった、昭和の真っ当な良き味である。
広東麺チャーリー
東京都新宿区西新宿7-1-4
03-5348-7691
営業時間11:00~23:00
無休
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<88>「ああ、うまい……」格が違う“昭和のラーメン”の味/広東麺チャーリー - 朝日新聞
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