料理ユニット「アンドシノワーズ」で旧仏領インドシナ三国(ラオス・カンボジア・ベトナム)の食文化を広めている田中あずささん。毎日キッチンに立ち、料理をしながらいろいろなことを考えるのが密かな楽しみなのだそう。その時間を『脳内よそ見』と名付けている田中さん。日々の料理に疲れたとき、息抜きしたいときにぴったりの、肩の力がふっと抜ける『脳内よそ見』のヒントをお届けします。
こんにちは。 前回のコラムでは、実家で過ごす正月と、何でもないけどしみじみ美味い「実家メシ」についてご紹介をしました。おかげさまでみなさまの実家メシのエピソードなど、心がうるっとする温かい感想を多く頂戴し、拝読しながらよい年明けを迎えました。
さて今(1月末)、私はカンボジアでこの原稿を書いています。
仕事柄、年に何度かはインドシナ三国(ラオス、ベトナム、カンボジア)を訪れますが、今回は久しぶりに旧正月(中国正月。1月末から2月初頭にかけた旧暦の正月で、年により日程は異なる)をこちらで過ごそうという目標がひとつありました。こうした催事がある時期は、やはり家庭ならではの古典料理に出会えるチャンスが多いので、何度来ても非常に学びが多いのです。
1片のチーズが教えてくれた、「味の初体験」
今回はさらにカンボジアの田舎町へも出かけ、古典的な家庭料理をみっちり教えてもらいました。水上集落と陸上の家庭では食材事情が異なり、もちろん料理方法も変わる。それは別々の時期に行くよりも、同じ時期に移動しながら比較してみると、違いがよくわかりますね。
さておき、私はこの夜、庭の縁台で、街から持参したプロセスチーズをかじりながらビールを飲んでおり、近くでテレビを見ている子供たちにもそれを分けてあげました。彼らは嬉しそうにかわいく笑って嬉しそうに食べ始めたまではよかったのですが、すぐさまぎょっとした表情に……。チーズをひと口も飲み込めず、おじいちゃんへパスしてしまいました(笑)。
どうやらあの子たちにとって、人生初めてのチーズだったんですね。
ちなみにそのチーズは半分くらいおじいちゃんが食べ、残りは翌日アイスボックスの氷の上に大事そうに置かれていました(インドシナというか、あのあたりの南国では、チーズを氷で冷やしてちびちび食べることが、よくあるのです)。
「初めてのチーズ」はどんな味だったか?
ようやく本題です。
東南アジア圏は酪農文化がないので、古来チーズを食べる習慣がありません。そんな中、あの子たちは10代にして初めてあのねっとりした、しょっぱくて、香り(彼らにとってみたら臭みかしら)のある塊を口にした。
さてそのとき、彼らはどう思ったんだろう??
私がクメール語に堪能でしたらすぐ、彼らに根掘り葉掘り「今の率直な感想」を聞いたところですがそれも叶わず、チーズは彼らにとってとりあえず「外国のまずい食べもの」という印象が根付いてしまったかもしれません。
私はその晩、蚊帳の中で悶々と「あの子たちのチーズ初体験はあれでよかったのか? 最初からおいしくなくてもいいとは思うけれど、他のチーズだったらどうだったろう。硬いチーズや、逆にもっとクリーミーなのだってあるし、表面が青いものや、白いものだってある。彼らのチーズ体験が、これで幕を閉じませんように……!」と妄想しながらうとうとしたのでした。
「初めての味」に敏感でいたい
連載Vol.3「『自分の味』に飽きたら、料理を“シェア”してみるといい」で触れましたが、舌は味に慣れていきます。そして慣れ親しんだ味の数は、人生経験を積むほど増える。知った味のレパートリーが貯まるのは「自分の味が育まれている」という成長のあかしだけれど、ただ一方で、新しい味に感動しなくなっているという側面があるかもしれない。
私は子どもの頃からチーズを食べていたし、今も大好きだけど、いちばん最初に食べた時ってどうだったかは、もう思い出せません。もしかしたら「まずーい!」と思って残していたかもしれませんね。
彼らの「チーズ初体験事件」は、私に、初めて食べるものに(よくも悪くも)感動する気持ちを思い出させました。
年をとり「知ったつもり」の食べものが多くなる一方の私ですが、子どもの頃は今よりもっと素直に頻繁に、「おいしい」とか「まずい」とか思っていたのかもしれませんね。
食べものの好みは誰でも少なからずあると思うので、これから彼らがチーズ大好きにならなくてもいいけれど、私も初心(?)に帰り、味に身構えせず、おいしいものはおいしい、苦手なものは苦手! と思える敏感な舌と気持ちを持ちたいなと、改めて思った出来事でした。
あ、最後に。
私は子供のころ納豆がどうしても食べられませんでした。父が苦手だったこともあり食卓へあがることがなかったせいでしょうか、給食などで無理やり食べさせられたりもしたけれど吐き出すほど嫌いだった。
でも、一人暮らしを始めた頃、納豆好きの友達が「納豆食べられないって、人生だいぶ損してるよ!」とおせっかいにも作ってくれた、たっぷりマヨネーズ&明太子を混ぜた納豆が私の味覚のどこかを一度に刺激し、大好きになったのでした。 この場を借り、私の味の引き出しを広げてくれた友人に感謝します。
アンドシノワーズ 田中あずさ
料理家、コピーライター。
仏印料理教室『アンドシノワーズ』主宰。2006年頃からインドシナ(ラオス・ベトナム・カンボジア3国)の古典料理を研究・紹介。
HP:http://indochinoise.com/
Instagram:https://www.instagram.com/imindochinoise/
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