日韓間で最大の懸念となっている元徴用工問題を巡り、韓国政府が解決案を公表し、外務省局長間の協議で日本側に説明した。日本との関係を本格的に正常化させようとする尹錫悦政権の方針を反映させた内容で、外交摩擦を避けながらも元徴用工への救済を進めようとする姿勢がにじんでいる。解決への機運を後退させないためにも、日本は積極的に協力すべきだ。
今回の解決案は、2018年に韓国最高裁が日本企業に支払いを命じた賠償金について、韓国政府傘下の団体が肩代わりをするというものだ。団体には、1965年の日韓請求権協定による経済協力金で成長した鉄鋼大手ポスコなどの韓国企業が寄付金を出し、これを原資とすることになる。請求権協定と矛盾せずに、日本企業の資産現金化を回避する精いっぱいの案と言える。
注目したいのは、韓国側が日本に対して新たな謝罪や資金の拠出などを求めていない点だ。韓国政府が今月12日に開いた元徴用工訴訟に関する公開討論会で、韓国外務省の幹部は「日本が既に表明した痛切な謝罪や反省を誠実に維持、継承することが重要だ」と述べるにとどめている。
日本企業からの寄付は「事実上難しい」との認識も示しており、日本政府も新たな謝罪などを出すことは困難としていることから、日本側の姿勢に沿う形で現実的な解決策を導き出したことになる。
こうした背景には、国際社会での韓国の立場を重視し、日本との懸案となっている歴史問題を韓国内での与野党対立など政治の争点にはしないという、尹大統領の方針がある。韓国政府は昨年末、民主主義や自由といった価値を共有する国々との連携を掲げる「インド太平洋戦略」を発表し、日米と歩調を合わせる考えを明確にしている。
今月の日米首脳会談の直前に行われた日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、共同文書で北朝鮮情勢を念頭に、韓国との協力を深化させることが盛り込まれた。国際情勢が厳しさを増し、日米韓の連携強化が求められる中、尹政権が元徴用工問題の解決を急ぎたいのは当然のことだろう。
だが、今回の解決案には韓国内で反発も強い。公開討論会では、政府案の説明中に聴衆から「売国奴」などとの怒号が飛び交い、野党側は「日本の圧力に屈して、韓国の司法の主権を放棄するのも同然だ」として、解決案を「屈辱的」と批判する。
2015年の元慰安婦問題に関する日韓合意では、韓国内で世論の反発を招き、解決に至らなかった経緯がある。元徴用工の問題でも、韓国政府が解決に前のめりとなり反対の声が強まって身動きがとれなくなれば、関係改善への希望は大きな失望へと変わってしまう。そうさせないためには、韓国内での理解をどこまで得られるかが重要となる。
尹氏はわずかな差で大統領選に勝利しており、国会では少数与党として厳しい政権運営を迫られている。韓国社会での政治的分断が進む中、野党勢力が「日本に全面譲歩した」として反対の姿勢を崩さないままでは、解決案の履行への不安が拭えない。日本政府は、関係改善に向けた尹政権の取り組みを真摯(しんし)に受け止めて評価するとともに、韓国社会での合意形成に向けて知恵を絞る必要がある。
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