未解決事件の代表格として語られることが多い「3億円事件」。当時と貨幣価値が異なるものの、同額分の不正受給が令和の時代に発生している。それは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京都が飲食店向けに支給している「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金」(いわゆる協力金)を巡ってだ。この協力金の不正受給額が総額3億円に達したことが8月24日までに、都産業労働局への取材で分かった。今後も総額や累計件数が増加する可能性がある。
テークアウト専門店を偽って5900万円不正受給
同局によると、8月23日までに発覚した不正受給の件数は計64件、総額3億1527万円に達したという。1件当たりの最多は8月19日に公表した案件で、5907万1000円。東京都墨田区内の40代男性は、テークアウト専門店だったにもかかわらず、協力金を不正受給していた。
都の協力金は、コロナ禍での飲食店の時短要請に基づき支給する。客席を複数持つ飲食店が主な支給対象で、客席を持たない、テークアウト店は対象外だった。
同局の担当者によると、職員が各案件を精査していた際、男性が都に提出した書類の不審な点を発見。疑念を抱いた職員が該当店舗の現場を視察した結果、実際はテークアウト専門店だったにも関わらず、協力金の支給要件に合致するよう、店舗に客席があると偽って申請していたことが判明したという。
都は男性への返還や同額の違約金を請求するとともに、警視庁に情報提供を行い、今後の対応を検討する方針だ。
時短営業を虚偽申請 事業者・申請者名公表
同局はまた、同日に飲食店「SMILE」(東京都北区)が協力金108万円を不正受給していたと都の公式Webサイトで発表した。実際には従来通りの営業をしていたにも関わらず、時短営業をしていたと虚偽申請していた。
5900万円の事案と異なり、事業者名と申請者個人の名前が公表されている件について担当者に聞くと「こちらは警視庁が独自に調査して逮捕したケース。警視庁の発表と同時に都も公表した」と説明している。
TBSは8月19日付けの記事で、警視庁が同店共同経営者の佐々木浩紀容疑者(62)と中国籍の念麗英容疑者(50)を逮捕したと報道。念容疑者は6月以降、無許可営業や客引きの疑いなどで摘発され、逮捕は今回が4回目。他にも900万円ほどの不正受給の疑いがあるという。
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都の協力金支給額、一律6万円から規模別に変更
都の協力金は、中小の飲食店事業者が当初の支給対象だった。だが、都内でチェーン展開する大企業の店舗が対象外だったことで、サイゼリヤなどが反発。業界団体の「日本フードサービス協会」も大手企業を対象とするよう要請するなど、業界からの反発も大きくなっていた。
これを受け、都は21年1月、大企業向けの協力金を新設。サイゼリヤは21年8月期の連結決算で、協力金65億円を計上し、通期純利益が当初見込みの3倍になるとして上方修正するなど、従業員の雇用維持に一定の効果は出ている。
ただ、当初は事業規模に関係なく、1日の支給額が一律6万円だったため、都内でチェーン展開する大企業と、中小事業者間で格差が生じる課題が生じた。コロナ禍前の売り上げが1日6万円にも満たない小規模経営の店舗の場合でも、制度上は月額最大180万円の協力金を得られるため、業界内を中心に批判の声が噴出していた。
その後、政府の方針変更によって、都も支給額を売上高などの事業者の規模に応じた支給制度に変更。事業者間の不公平感解消につなげたが、その一方で申請件数も増加。5900万円の不正受給のケースのように、支給の迅速性を優先させた結果、現場視察など事業者の実態把握がままならないまま、公金が投入され、支給後に不正受給が発覚するようなケースが相次いでいる。
例えば都内では、不正受給でベトナム人社長が逮捕されたケース(裁判で無罪判決)や、不正受給による公表には至っていないものの、週刊文春の報道(2021年6月24日)で、緊急事態宣言下で自身が経営する飲食店で飲み会を開催しながら、都の協力金も得ていたとしてチャンネル登録者400万人以上の大物YouTuberが自主返還するといったケースが発生している。
不正受給・虚偽申請は詐欺罪 10年以下の懲役刑の可能性
コロナ禍では協力金の在り方を巡って課題が浮き彫りになった。しかし、当然のことながら、協力金の虚偽申請や不正受給は詐欺罪という列記とした犯罪だ。逮捕され、有罪となった場合は10年以下の懲役刑となる。
各自治体や厚生労働省は不正受給の抑止に向け、通報窓口の設置など取り締まりを強化している。全国で新型コロナの陽性者数が再び増加する中、事業者には適切な制度活用が求められそうだ。
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