米ロサンゼルスで27日夜に行われたアカデミー賞授賞式で、俳優ウィル・スミスさんが壇上でコメディアンのクリス・ロックさんを平手打ちした騒動について、授賞式を主宰する米映画芸術科学アカデミーは28日、スミスさんを非難し、正式な調査を行うと発表した。一方、スミスさんは28日、自身のインスタグラムアカウントでロックさんに謝罪した。
授賞式でロックさんは、スミスさんの妻ジェイダ・ピンケット=スミスさんの髪型についてジョークを述べた。すると、スミスさんはゆっくりと壇上に上がり、ロックさんを勢いよく平手打ちした。その後も座席から放送禁止の罵倒語を繰り返し、生中継が中断された。
スミスさんはそのすぐ後、テニスのセリーナとヴィーナス・ウィリアムズ姉妹を育てたリチャード・ウィリアムズさんを描いた「King Richard」(邦題「ドリームプラン」)の演技で、主演男優賞を獲得した。
ピンケット=スミスさんは以前から、脱毛症と闘っていることを公表していた。
「行動規範や州法にのっとって」対処
声明の中でアカデミーは、行動規範や米カリフォルニア州法にのっとって「今後の動きと結果を模索していく」と述べた。
また、「アカデミーは昨晩の授賞式でのスミス氏の行動を非難する。この件について正式な調査を開始した」と述べた。
アカデミー会員の1人はBBCの取材に対し、この出来事はハリウッド最大の式典に水を差し、参加者の功績に影を落としたと指摘した。
匿名希望のこの女性会員は、「ウィル・スミスのしたことに本当にがっかりした」と話した。
「私からすれば、スミスはみんなから注目を奪ってしまった。あんなに暴力的になる場所ではないと思う。多くの人がショックを受けていた。子供たちもいた。授賞式は祝いの場のはずだ」
「受け入れられも、許されもしない」
アカデミーの声明から数時間後、スミスさんは自身のインスタグラムアカウントに、ロックさんに対する謝罪文を掲載した。
「クリス、私は公にあなたに謝ります。私の行動は一線を超えていたし、間違っていた」
「暴力はどんな形であれ、有害で破壊的だ」
「昨晩のアカデミー賞授賞式での私の振る舞いは受け入れられるものでも、許されるものでもない。私に関するジョークは仕事の一環だが、ジェイダの病気についてのジョークは私には抱えきれず、感情的に反応してしまった」
スミスさんはまた、アカデミーとウィリアムズ一家にも謝罪の言葉を述べた。
「自分の行いが、それがなければすばらしい旅路になるはずだったものを汚してしまい、心から後悔している」
ロックさんがピンケット=スミスさんに向けて口にしたジョークは、1997年の映画「G.I.ジェーン」にちなんだもの。デミ・ムーアさんが短髪で海軍特殊部隊兵を演じた。
ピンケット=スミスさんは2018年に、脱毛症との闘いについて初めて公表。「毛が抜け始めた時は、本当に怖かった」と話していた。
授賞式でピンケット=スミスさんは、ロックさんのジョークに不愉快そうだった。スミスさんは壇上に上がり、ロックさんを平手打ちした。座席に戻ったスミスさんは、「うちの妻の名前を口にするな」と、放送禁止用語を交えながら繰り返した。
その後の主演男優賞の受賞スピーチでスミスさんは涙ながらに、「アカデミーに謝りたい。ほかの候補者全員に謝りたい」と述べた。ただし、この時はロックさんには謝罪しなかった。
「芸術は人生を模倣する。リチャード・ウィリアムズをみんながあの父親は頭がおかしいと言ったのと同じで、今の自分もそう見えているんだろう。でも愛は人に、とんでもない狂ったまねをさせる」と、スミスさんは話した。
ロックさんをたたいた後のスミスさんは、コマーシャル休憩の間、会場にいた米俳優のデンゼル・ワシントンさんやタイラー・ペリーさんらになだめられていたという。
ピンケット=スミスさんと共演経験のある俳優のティファニー・ハディッシュさんは、雑誌「ピープル」の取材に対し、スミスさんらのやりとりは「今まで見た中で最も美しいものだった」と話した。その上で、スミスさんは妻のために立ち上がったのだと述べた。
スミスさんにたたかれた直後のロックさんは、ぼうぜんとした様子で、観客に「今のはテレビ史上最高の夜だったね」と言った後、ドキュメンタリー賞を発表した。ロックさんはそもそも、ドキュメンタリー賞発表のために壇上に上がっていた。
ロックさんはその後、被害届を出さないことにしたという。平手打ちを受けたことについては公にコメントを出していない。
この件については、多くの人がスミスさんが暴力をふるったことは間違いだと指摘している。
アカデミー会員で映画プロデューサーのマーシャル・ハースコヴィッツさんは、「アカデミーには、ウィル・スミスに対して懲罰措置を行うよう求める。彼は今晩、コミュニティー全体をはずかしめた」とツイートした。
アカデミー理事の1人で黒人のロジャー・ロス・ウィリアムズさんは米紙ハリウッド・リポーターに対し、スミスさんの行動は「黒人に対する固定観念を強化するもので、心の底から傷ついている」と述べた。
俳優のウェンデル・ピアスさんは、スミスさんに「公に後悔の念を示してほしい」と語った。その一方で、ロックさんは以前、黒人の髪型とアイデンティティーの関係性についてドキュメンタリーを制作していたと指摘した。
「その作品は、ジェイダを含む黒人女性の脱毛症との葛藤を理解するものだった。でも今回のジョークは違う。侮辱的で挑発的なものだった」と、ピアス氏はツイートした。
ソーシャルメディアでは、アカデミーの行動規範によれば、スミスさんは主演男優賞を返還するよう求められる可能性があると指摘する声もある。
アカデミーの行動規範には、「会員の良識を欠いた行動」を含む、「あらゆる形の暴力や嫌がらせ、差別に強く反対する」と書かれている。
また、アカデミーの理事会は、行動規範に違反した会員の資格を一時的に停止したり剥奪する権利を持っている。
しかし、俳優のウーピー・ゴールドバーグさんなど業界関係者は、スミスさんが賞を取り上げられることはないだろうとみている。
ゴールドバーグさんは、「オスカー(アカデミー賞)を取り上げるようなことにはならない。何かしらの措置は取られるが、そういう風にはならないと思う」と話した。
<解説>危機管理について ―スティーヴン・マッキントッシュ、エンターテインメント記者(ロサンゼルス)
ウィル・スミス氏とPRチームは、今回の謝罪がスミス氏のキャリアとアカデミーとの関係を修復し、28日のやりとりをめぐる世論の炎を消すのに十分であってほしいと思っているだろう。
スミス氏の声明は細心の注意を払って書かれている。言葉遣いに注意し、なぜあのような反応をしたのかを、弁解しようとせずに説明している。
しかし、それでこの話が終わったことにはならない。何はともあれ、ロック氏もいずれは公の場でコメントしなければならないだろう。今のところ、彼はこのエピソードをユーモアをもって受け流すつもりのようだ。
ロック氏は警察への届け出を拒否し、平手打ちの後には舞台裏で冗談を言ったと伝えられている。「モハメド・アリに殴られて、かすり傷も残らないのは、あの時だけだ」と、ボクサーの伝記映画でスミス氏が演じた役柄にちなんだジョークを言ったという。
しかし、この平手打ちに関するニュースが消え始めても、この日の出来事は、この先何年も関係者につきまとうだろう。ジャーナリストやトーク番組の司会者が、新作映画の宣伝中に2人にインタビューする際、この件を持ち出さないわけにはいかないだろう。
一方、アカデミーの理事会は、30日に会合を開き、スミス氏に対してさらに措置を取るべきかどうかを議論すると報じられている。
一部では、彼のオスカーを取り消すべきとの意見もあるが、その可能性は低いだろう。アカデミー会員資格の停止など、より緩やかな制裁を受ける可能性もあるが、今回の謝罪を受けて、その可能性も低くなったかもしれない。
ただひとつ確かなことは、この件に対する世界的な関心は依然として高く、ファンはこの話が次にどこへ向かうのかに関心を抱いているということだ。
取材:リーガン・モリス(ロサンゼルス)
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