<エンゼルス7-4ホワイトソックス>◇4日(日本時間5日)◇エンゼルスタジアム
【アナハイム(米カリフォルニア州)4日(日本時間5日)=斎藤庸裕】エンゼルス大谷翔平投手(26)も、皆と同じ1人の若者だ。
18年10月に右肘、19年9月に左膝を手術し、20年8月上旬には右前腕を故障した。投手で160キロ超の直球を投げ、打者では140メートルを超える特大弾を放つ。超人と思われがちだが、時に落ち込み、引きずることもある。それでも諦めない姿勢が、完全復活に導く。
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大谷も“普通”の人間だった。23歳で挑んだメジャーでの二刀流。過去3年、自らを奮い立たせては、そのたびに壁が立ちはだかり、行く手を阻んだ。かつて、野球の新しい魅力を語る中で「僕も特別なことはしている」と言った。周囲の目も同じ。野球の神様と呼ばれるベーブ・ルース以来、100年ぶりの記録の数々…。超人的なイメージが先行し、人なつっこい笑顔と前向きな思考、冷静な口ぶりから心の底の感情は読み取りにくいが、若い青年の心は大きく揺れていた。
昨季は好きなはずのマウンドで投げていても、心地悪かった。プロ入り前は、打者より投手で勝負したい気持ちが強かったという。それでも昨年2度の登板では、投手の魅力は「ないですね」と言い切った。客観的に見ていたマドン監督から「もっと楽しんで」と指摘されるほど、苦しんだ。「楽しむも何も、楽しむためには自分のパフォーマンスを出せる状態が一番だと思います」。声のトーンは低く、元気もなかった。
強靱(きょうじん)な精神力で二刀流を成し遂げてきたかといえば、そうでもない。負のメンタルを引きずり、昨シーズンは打撃も本来の打棒が影を潜めた。技術面だけではなく、無観客も追い打ちをかけた。「どうしても気持ちが入らなかった」。同じ状況で結果を残していた選手もいた一方で、低迷から抜け出せなかった。次第に顔のほおがこけ、やせた。「あんまりやせない方だとは思うんですけど、それでも落ちましたね」。コロナ禍にも大きく左右されていた。
ここまでの経験した“谷”は1度だけではない。平成から令和に変わる直前。右肘の手術からのリハビリ中に決意を示した。「野球人生を語るにはまだまだ序章。新しい元号になって、これからが本番だと思っている」。だが、その年の9月、左膝を手術。19年はこれまでで「一番、悔しいシーズン」となった。
昨季の開幕前は、力強く意気込んでいた。「飛ばせるだけ飛ばして、両方しっかり頑張りたい」。だが、右前腕の故障で登板わずか2試合に終わった。メジャー1年目に右肘を故障後、二刀流継続について「そのつもりですし、球団もそう思っている」と確信があった答えも、右前腕の2度目の故障後は「どうですかね。どれだけ投げられるか次第」に変わった。
何度もつまずいた。それでも立ち上がれたのは、“信頼と期待”があったからだった。二刀流は「(自分の)強い気持ちだけでこうなってきたわけではない」と明かす。アマチュア時代、日本ハムでも周囲が環境を整えてくれた。そして今も、30年前から二刀流選手の育成を夢描いていたマドン監督と新任のミナシアンGMが、その潜在能力を信じている。「可能性があるなら、やりたい」と話していた大谷のために、まだ扉は開いていた。
だからこそ、自分自身だけでなく、支えてくれる人のためにも二刀流でプレーする-。「それを含めてエンゼルスにとってもらったので、まずは投げられるようにもう1回頑張りたい」。前例のない、レールのない道を切り開くという意識は大谷にはない。誰であろうと、人生の旅に困難はつきまとう。皆で共に歩むから、前に進める。大谷はこの日の登板でも、最後の最後で不運に見舞われた。それでも大きな1歩を踏み出した。「人間・大谷」は何度も紆余(うよ)曲折を経て、完全復活へと向かう。
▽マドン監督 完全なるベースボール・プレーヤーだ。100マイルを超えるボールを投げ、100マイルを超える打球速度で400フィート(約122メートル)以上の飛距離を打つ。彼はそれをするチャンスが必要だっただけ。感情をあらわにしていた。見ていて非常に素晴らしいものだった。素晴らしい素質があり、彼自身に大きな自信もある。
◆日本では 大谷は日本ハム時代、DH制の試合で投げ、打席にも立ったケースが公式戦で7試合(先発6試合)CSで2試合(先発1試合)ある。先発試合は1完封を含む7戦全勝だった。16年7月3日ソフトバンク戦では「1番・投手」で出場し、初回に中田の初球を本塁打。投手で史上初の先頭打者本塁打となった。同10月16日のCS(対ソフトバンク)では9回にDH解除で救援登板し、日本球界最速の165キロをマーク。17年10月4日オリックス戦では、51年藤村富(阪神)以来66年ぶりとなる「4番・投手」で先発出場し、打って1安打、投げては10奪三振で完封した。
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