政府の途上国援助(ODA)の役割はまず、現地の経済・社会開発を助け、人々の福祉を向上させることだ。短期的な日本の国益を優先するあまり、その基本が後退しては、かえって積み上げてきた信頼を損ないかねない。対話を通じ、現地の人々が真に求める課題の解決に、丁寧に向き合う必要がある。
政府が今月、ODAの基本方針となる「開発協力大綱」を8年ぶりに改定した。ODAを「外交の最も重要なツールの一つ」と位置づけ、これまで以上の「戦略的な活用」をめざす。日本が提唱した外交構想「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進につなげることも明記された。
日本のODA予算は1989年に米国を抜いて世界一になった。しかし、97年度の1兆1687億円をピークに減少傾向が続き、23年度は5709億円と、ほぼ半減した。国連は国民総所得(GNI)比で0・7%の目標を掲げるが、日本の実績は半分程度だ。
大綱は、この数値を念頭に「拡充」をめざす方針を示したが、厳しい財政事情の下、増額は容易ではない。そこで前面に出したのが、援助の「質」の重視である。重点分野として、食料・エネルギー安全保障、デジタル、質の高いインフラをあげ、「質の高い成長」を通じて貧困撲滅に取り組むとした。
相手国からの要請を待たずに、日本から支援メニューを提案する「オファー型協力」の強化も打ち出した。日本の都合を押し付けることのないよう、大綱に記された「対等なパートナーシップ」「対話と協働」という理念の実践が問われる。
大綱はまた、日本の協力は、多額の借金を負わせて支配を強める「債務のわな」や「経済的威圧」とは無縁で、相手国の自立性や持続性を尊重するものだと強調している。念頭にあるのは、巨額の投資や援助によって影響力を強める中国の存在だ。
FOIPの推進、日本ならではの質のアピール、オファー型の強化といった一連の方針も、中国に対抗して、途上国を引き寄せたいという狙いが透けて見える。途上国に踏み絵を迫り、地域に分断を招くようなことはあってはならない。
政府はODAとは別に、「同志国」の軍を支援する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」という枠組みをつくる一方、ODAの対象は「非軍事」に限る原則を維持した。
だが、ミャンマーに提供した船舶が兵士や武器の輸送に使われたことが明らかになったばかりでもある。軍事目的への転用や第三者への移転を防ぐ確かな仕組みをつくらねばならない。
からの記事と詳細 ( (社説)開発協力大綱 援助の理念を忘れずに:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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